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2025.05.28
モース硬度は、鉱物の「硬さ」を測定するための代表的な指標です。ここでは、その定義や特徴について詳しく解説します。
モース硬度(Mohs Hardness)は、ドイツの鉱物学者フリードリッヒ・モースによって、1812年に提唱された硬さの尺度です。硬さの異なる代表的な10種類の鉱物が基準となっており、最も柔らかい「タルク」を1、最も硬い「ダイヤモンド」を10として、1〜10の数値で表します。
硬度は「引っかき試験」と呼ばれる方法で測定します。これは、調べたい鉱物と基準鉱物をこすり合わせ、どちらに傷が付くかを確認するというものです。傷が付いたほうが軟らかい、つまり硬度が低いと判断されます。
たとえば、石英(水晶)はモース硬度7に位置づけられています。この石英で傷が付く鉱物は硬度7以下、傷が付かない鉱物は7以上であると推定されます。ただし、モース硬度はあくまで目安です。鉱物の構造や結晶の方向によっては例外もあるため、他の硬度試験が用いられることもあります。
硬度の尺度には、モース硬度のほかにもビッカース硬度やヌープ硬度といった複数の方法があります。それぞれの測定方法は大きく異なっており、モース硬度は引っかき傷による相対的な硬さを示すのに対し、ビッカース硬度やヌープ硬度は圧子(あつし)と呼ばれるダイヤモンド製の尖った器具を押し当て、そのときにできる「くぼみ」の大きさから数値を算出します。
ビッカース硬度やヌープ硬度では、数百から数千といった幅のある絶対値で硬さを示すため、モース硬度では判別しにくい微細な差異まで測定できます。一方、モース硬度はあくまでも簡易的な比較指標であり、「硬度8が硬度4のちょうど2倍の硬さ」といった比例関係が成り立つわけではありません。
とくに、モース硬度9と10の間には、数値以上に大きな硬さの差があることが知られています。このように、それぞれの尺度には特性と適した用途があり、目的に応じた使い分けが重要です。
靭性(じんせい、toughness)は、鉱物や宝石が割れや欠けにどれだけ抵抗できるかという「粘り強さ」を表す性質です。モース硬度が表面の傷つきにくさを示すのに対し、靭性は衝撃に対する壊れにくさを示すもので、この二つはまったく異なる概念です。
硬度が高くても靭性が低ければ、落とした衝撃などで簡単に割れる可能性があります。例えば、ダイヤモンドはモース硬度10と非常に硬い反面、「へき開」という特定方向に割れやすい性質があるのが特徴です。強い衝撃を加えると砕けることがあります。
一方、硬度が7とされる中程度の宝石であっても、構造的に靭性が高ければ、強い衝撃にも比較的耐えることがあります。少々の打撃では欠けにくい場合もあるでしょう。
宝石の耐久性を評価するには、硬度と靭性の両方をバランスよく見ることが大切です。どちらか一方だけでは、その宝石が実際にどの程度の衝撃や摩耗に耐えられるかを正しく判断できません。
素材 | モース硬度(目安) |
---|---|
人の爪 | 2.2〜2.5 |
石膏 | 2 |
銅貨(10円玉など) | 約3 |
方解石 | 3 |
フローライト | 4 |
ガラス(窓ガラス) | 約5.5 |
ナイフの刃(鋼鉄) | 5〜6 |
クォーツなど宝石類 | 7 |
例えば、人の爪で引っかいて傷がつく鉱物は、モース硬度2以下と判断できます。銅貨でこすって傷がつけば、硬度3以下です。ナイフで傷がつく石はおおむね硬度4〜5以下で、逆に傷がつかなければ6以上という目安になります。
ガラスは約5.5の硬度を持つため、クォーツなど硬度7の鉱物には傷つけられてしまいます。実際、メガネや腕時計のガラスがいつの間にか細かい傷で曇ってしまうのは、空気中の埃に含まれる石英の粒子が原因です。
このように、7以上の硬さを持つ宝石は比較的傷つきにくいと考えられています。
代表的な宝石(天然石)11種類のモース硬度について、硬い順にランキング形式でご紹介します。それぞれの宝石が持つ硬度の目安と特徴もまとめました。
順位 | 宝石名 | モース硬度(目安) |
---|---|---|
第1位 | ダイヤモンド(金剛石) | 10 |
第2位 | コランダム(鋼玉) | 9 |
第3位 | トパーズ(黄玉) | 8 |
第4位 | エメラルド(翠玉) | 7.5〜8 |
第5位 | アクアマリン | 7.5〜8 |
第6位 | トルマリン(電気石) | 7〜7.5 |
第7位 | アメジスト(紫水晶) | 6.5〜7 |
第8位 | ペリドット(橄欖石) | 6.5〜7 |
第9位 | ターコイズ(トルコ石) | 5〜6 |
第10位 | オパール(蛋白石) | 5〜6.5 |
第11位 | パール(真珠) | 2.5〜4 |
ダイヤモンドは、モース硬度で最高の「10」を誇る、地球上でもっとも硬い天然鉱物です。ナイフでこすっても傷はつかず、実際の研磨にもダイヤモンドが使われることがあります。
その硬さは圧倒的ですが、「へき開」と呼ばれる割れやすい方向があるため、強い衝撃には注意が必要です。ビッカース硬度でも約7,000〜8,500とされ、硬度9の宝石を大きく上回ります。
コランダムは、ルビーやサファイアの母体となる鉱物で、モース硬度9の非常に硬い素材です。ダイヤモンドに次ぐ硬さを持ちながら、衝撃にも比較的強く、日常使いにも適しています。
ルビーは赤色のコランダム、サファイアは青色を中心にしたバリエーションで、どちらも傷がつきにくく、化学的にも安定しています。へき開が明瞭でないため、割れにくく靭性も高いのが特長です。
この優れた耐久性から、ジュエリーだけでなく、サファイアガラスや人工ルビーによる工業用途にも活用されています。ビッカース硬度はおよそ1,600〜2,000です。
トパーズはモース硬度8を持つ比較的硬い宝石で、淡い黄色や青など透明感のある色合いが魅力です。ガラス程度では傷つかない硬さを備えていますが、強い衝撃には弱い性質があります。
この宝石は「へき開」が非常に明瞭なため、落とす・ぶつけると割れやすく、取り扱いには注意が必要です。とくに指輪のように衝撃を受けやすい場面では、丁寧な扱いが求められます。
ただし通常の使用では傷が付きにくく、カット面もシャープに仕上がるため、輝きが美しく映えるのが特長です。スカイブルートパーズやインペリアルトパーズなど、カラーバリエーションも豊富で人気があります。
エメラルドは緑色のベリル(緑柱石)で、モース硬度7.5〜8と比較的高い硬さを持つ宝石です。水晶より硬いため引っかき傷には強く、カットされた面の輝きが際立ちます。
ただし、内部にキズやインクルージョン(内包物)が多く、靭性はそれほど高くないため強い衝撃には注意が必要です。特に指輪など日常的に衝撃を受けやすい場面では、慎重な扱いが求められます。
一方で、ネックレスやピアスのように接触の少ないジュエリーでは比較的安心して使えます。美しい緑色とシャープなカットが魅力の宝石ですが、繊細さも併せ持つため、使用シーンを選ぶことが大切です。
アクアマリンは淡い青色の緑柱石で、モース硬度は7.5〜8と比較的高く、日常使いにも適しています。傷が付きにくく、透き通るような青い輝きを長く保ちやすい点が魅力です。
エメラルドと同じ鉱物に属しますが、内包物が少なく透明度が高いため耐久性もやや優れています。大きめの結晶でも割れにくく、加工しやすいことからジュエリー用途でも扱いやすいとされています。
とはいえ、強い衝撃には注意が必要です。丁寧に取り扱うことで、その美しさをより長く保つことができます。実用性と美しさを兼ね備えた、3月の誕生石としても人気の宝石です。
トルマリンは多彩なカラーバリエーションを持ち、10月の誕生石としても知られる宝石です。モース硬度は7〜7.5と比較的高く、傷が付きにくく割れにくいため、扱いやすい宝石として広く親しまれています。
靭性も高いため、指輪やネックレス、ブレスレットなど幅広いジュエリーに適しています。特に人気の高いパライバトルマリンをはじめ、ルース(裸石)の状態でもコレクションされることが多く、注目を集めている宝石です。
硬度7前後のため、長く使ううちに細かな擦り傷が蓄積する可能性はありますが、軽い研磨で輝きを取り戻すことができます。
アメジストは紫色の水晶で、モース硬度7の代表的な宝石です。水晶の仲間にあたる鉱物は一律に硬度7を持ち、日常使用で傷が付きにくい「安心できる硬度」の基準とされています。
ガラスやナイフでも傷つきにくいため、指輪やイヤリングなどにも適しており、普段使いしやすい宝石です。ただし、空気中の微粒子との接触で細かな擦り傷がつくことはあり、保管時には他の宝石と分けて収納するのが望ましいでしょう。
比較的手に入りやすく、カットの種類も豊富です。十分な硬さがあるため、カットの角も崩れにくく、美しい紫の輝きを長く楽しめます。
ペリドットは明るいオリーブグリーンが特徴の宝石で、モース硬度は6.5〜7程度です。比較的硬い石ですが、長期間の使用では細かな擦り傷や衝撃による割れに注意が必要です。
指輪など衝撃を受けやすいジュエリーに使う場合は、爪留めなどで石を保護するデザインが適しています。ネックレスやピアスであれば、日常使いでも問題なく楽しめるでしょう。
適切に扱えば、ペリドット特有の透明感ある緑の輝きを長く保つことができます。保管時は硬度の高い宝石と擦れないよう注意すると安心です。
ターコイズは空色の不透明な宝石で、モース硬度5〜6とやや柔らかく、古くからお守り石として親しまれてきました。美しい色合いが魅力ですが、傷や変色に弱く、取り扱いには注意が必要です。
ナイフやガラス片でも傷がつきやすく、汗や油を吸収しやすい性質もあります。このため、日常的にぶつかりやすい指輪よりは、ペンダントやピアスなどの使用が向いているでしょう。使用後は汗や汚れを乾いた布でやさしく拭き取るなど、丁寧なケアを心がけると安心です。
オパールは虹色の遊色効果で知られる10月の誕生石です。モース硬度は5〜6.5とやや低く、美しい反面、傷や摩耗に弱く取り扱いに繊細さが求められる宝石です。
オパールは結晶の形を持たないため種類によって硬さにばらつきがあり、多くはガラスと同じくらいの硬さです。乾燥や熱にも弱く、指輪に使う場合はぶつけたり擦れたりしないよう注意が必要です。
オパールはペンダントやブローチなど、衝撃の少ないジュエリーに適しています。指輪に使用する際は、 宝石の周囲を地金で覆う覆輪留めなどで保護するのが一般的です。使用後は柔らかい布で拭き、個別に保管することで、その繊細な輝きを長く保つことができます。
パールは貝から生まれる有機質の宝石で、モース硬度は2.5〜4と非常に柔らかく、傷がつきやすい素材です。やさしい光沢が魅力ですが、衝撃や摩擦にとても弱く、扱いには繊細な注意が必要です。
主成分は炭酸カルシウムで、爪や硬貨でこすっただけでも表面に傷がつくことがあります。また汗や酸にも弱いため、着用後は柔らかい布で一粒ずつ拭き取るなどのケアが欠かせません。
他の宝石と一緒に保管すると光沢が失われやすいため、個別に収納しましょう。硬度は低いものの、照りの良い大粒のパールは非常に価値が高く、その美しさを保つためにも丁寧な扱いが大切です。
宝石の硬さは見た目の美しさだけでなく、使用シーンや耐久性にもかかわります。
ここでは、硬度の高い宝石と低い宝石の、それぞれの特性と活用例を紹介します。
モース硬度7以上の宝石は擦り傷に強く、長く美しい状態を保てることから、婚約指輪や結婚指輪など日常使いのジュエリーに広く用いられています。服や日用品との接触でも傷つきにくく、カットの輪郭がはっきり出るため、光を受けたときの輝きがより引き立ちます。
また、サファイアガラスのように時計や工業用素材としても活躍し、硬さゆえの実用性も魅力です。もちろん割れにくさは靭性にも関わるため、用途に応じた扱いが必要ですが、硬度の高い宝石は「丈夫で頼れる素材」として重宝されています。
モース硬度6以下の宝石は、擦り傷や摩耗が生じやすいため、使い方やデザインに配慮が必要です。オパールやターコイズ、真珠などは繊細な性質を持つため、ペンダントやブローチのように接触が少ないジュエリーで使われることが多くなります。
指輪に使用する場合は、石を囲う覆輪留めなどの保護的なセッティングが有効です。柔らかな色合いや風合いが魅力の一方で、取り扱いには優しい気遣いが求められる宝石ともいえます。
着用後は汚れや汗をやさしく拭き取り、他の硬い宝石とぶつからないように保管するなど、丁寧なケアを心がけることが美しさを長く保つ秘訣です。
宝石の価値を決める要素はさまざまですが、硬度も重要な評価材料の一つです。硬度が高い宝石は日常使用でも表面が摩耗しにくく、状態が良好に保たれやすいため、中古市場や査定の場で評価されやすい傾向があります。
ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、価値を決める決定的要因は希少性や色、透明度などの美観です。オパールや真珠のように硬度が低くても、美しさや希少性が評価されて高額となることもあります。
査定では硬度そのものよりも、「傷があるかどうか」「今後の耐久性」などが重視されます。例えば、ルビーやサファイアは数十年経っても輝きを保つ例がある一方、光沢が損なわれやすい宝石の場合、状態によって査定額に差が出ることもあるでしょう。
硬度は「宝石の美しさがどれだけ長く保たれやすいか」を見極めるための一つの目安であり、他の要素とあわせて評価されます。丁寧に使われて状態が良好なものほど、査定でプラスに働くでしょう。
宝石の硬度とは、その素材がどれほど傷つきにくいかを示す指標であり「モース硬度」という尺度で数値化されます。ダイヤモンドは硬度10、真珠は2.5〜4程度とされており、種類によって大きく異なります。
硬度が高い宝石は日常使いに適している一方で、低いものは取り扱いに注意が必要です。手持ちのジュエリーや購入を検討している宝石の硬度を知って、用途やお手入れ方法を考える際の目安としてみてください。